― 単純ヘルペス(単純疱疹)③ ―

 妊婦に性器ヘルペスがあると、産道で赤ちゃんに感染して(産道感染)、新生児の全身感染症(新生児ヘルペス)や、髄膜脳炎を起こし、重症になることがあり、妊娠後期の初感染予防にはコンドームの使用が必要となります。
 新生児ヘルペスでは不顕性感染はほとんどなく、細胞性免疫が未熟で重症化しやすいとされています。臨床病型は①全身型、②中枢神経型、③表在(SEM)型(皮膚、眼、口腔)に分けられ、生後3週以内に発症しますが、平均発症日数は全身型が4.6日で早発、中枢神経型は11.0日で遅発、表在型は6.0日となっています。主な初発症状は発熱、哺乳力低下、皮疹・口内疹、活動性の低下で、続発症状として肝機能異常、呼吸障害、出血傾向などがあります(表)。重症型では無呼吸や播種性血管内凝固症候群(DIC)や肝不全、電解質異常を合併し、中枢神経型では痙攣が長引き脳浮腫を起こしたり、網脈絡膜炎を後で起こすこともあります。典型的な紅斑を伴う直径1~2mmの水疱は約25~50%にしかみられず、臨床症状からの早期診断を困難にしていますが、発熱は生後3~4日でみられ、活動性の低下や無呼吸などとともに本症を疑うことが大切です。1988年に行なわれた全国調査での致命率は全身型で60%、中枢神経型では2/3が重い神経後遺症を残し、表在型はほぼ後遺症なく治癒することがわかりました。その後の抗ウイルス剤による治療の確立、早期診断、早期治療により致命率は改善されています。
 新生児ヘルペスと同様に重症な病型にヘルペス脳炎があり、発熱、嘔吐、項部硬直などの症状と同時か、やや遅れて意識障害や痙攣、精神症状などで発症します。特に、意識障害に陥る前に幻覚、妄想、錯乱、異常行動などの精神症状を示すことが特徴とされ、死亡率は10~15%で、生存例でも1/2~2/3が重症の神経後遺症を残します。
 妊婦の初感染の起こる時期は初期、中期がそれぞれ30%、後期が40%とされています。母子の垂直感染経路としては、産道感染が90%と大部分を占め、経胎盤子宮内感染が5%、出生後の濃厚な接触による母子感染が5%です。妊婦が初感染で症状のある場合には児への感染率は50%ですが、症状がない場合には33%に低下し、再発で症状のあるもので3~4%、症状がなければ0.04%と非常に低率になります。産道感染の多くは症状のない再発性のもので、児の発症率は7~17%といわれています。妊娠初期、中期の母体のHSV初感染で胎内感染することが稀にあり、流早産や胎内死亡、先天性単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症(先天ヘルペス)を起こします。
 先天ヘルペスは生後2日以内にみられる水疱、瘢痕などの皮膚症状、網脈絡膜炎、角結膜炎、小眼球症などの眼病変、無脳症、小頭症、小頭症、脳内石灰化などの中枢神経異常を3主徴とし、6割が早産で、低出生体重児となます。
 また、性器ヘルペス罹患時の垂直感染予防では、分娩時に症状があったり、初感染で発症より1ヶ月以内の場合や、再発で発症より1週間以内では帝王切開が選択されます。