― ゲーム脳② ―

 これまでも、テレビゲーム使用時の脳の活動を測定した研究報告は出されていますが、それらの報告では、単にテレビゲームに慣れたために、前頭前野を働かせなくてもよくなったのだろうとか、目を使うためには、視覚を司る脳の部分を働かせる必要があるために、前頭前野の活動が抑えられているのだろうという解釈が主流でした。「ゲーム脳の恐怖」では、テレビゲームが原因で、前頭前野が壊れ、働かなくなり、キレやすくなったりすると著者の森昭雄教授は言っています。

 東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授は、中学生と大学生にテレビゲームと単純な計算のクレペリン検査をしている時の脳波を測定し、ゲーム中は視覚野と手を動かす運動野しか働いていないのに、計算をしている時は計算を司る左頭頂葉、さらに前頭葉、後頭葉と脳全体が活動していたと報告しています。ゲームをしたりビデオやテレビなどのメディアを視聴すると、前頭前野はあまり働かず、他の視覚的な情報を感知する場所はとても活発に働いているので、脳が働かないということではないようです。どのようなゲームをした時に脳がどう反応するのか、ゲームに対する取り組み方や大人と子どもの違いなどのデータはなく、前頭前野が働かないことでどのような悪影響がでるか等は今後の検討が必要だとしています。

 認知科学、発達・学習システム論が専門の東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系開一夫助教授らが行っている遠赤外線分光法(NIRS)を用いた脳活動計測を、シューティング(「インベーダーゲーム」のような飛行機などの機体を繰り、弾を撃って敵を倒していくゲーム)、リズムアクション(音楽に合わせてボタン入力し、キャラクターをダンスさせたり、曲を演奏したりするゲーム)、ブロック落とし、サイコロパズルの4種類のテレビゲーム開始前後に大学生に行った結果、ゲームの種類に関係なく、前頭前野に近い広範囲で脳の活動が低下しました。特に、リズムアクションゲームは、広範囲に最も低下が大きいのに対し、ブロック落しでは前頭前野の右前、サイコロパズルでは右後ろに活動がみられたと2002年の日本シュミレーション&ゲーミング学会で報告しています。この中で明らかになったのは、①テレビゲームの種類によって脳の活動部位が異なること、②テレビゲームをしている時は前頭前野正中部の活動が低下すること、③そしてそれは一連の動作の学習に関連がありそうだということで、脳の活動が低下するから悪い、上がるから良いという事は言えず、その結果の示す意味はこれから実証されていくところだと言えます。脳の活動実験では、ゲームを開始すると脳血流は減少し、やめるとまた増加しますが、これはあくまで相対的な変化なのです。脳は座っていても、話を聞いていても、何もしていなくても様々な活動をしており、個人差も大きく、実験に入る状況によって、緊張したり、様々な刺激を受け、いろいろな思考も働きます。脳の研究は、これらの実験段階での多くの要因も考えて総合的に判断する必要があります。