メディアリテラシー②
― 定義について ―

メディア・リテラシーの定義については、諸外国においても、多少異なっていますが、メディアに主体的に対応し、批判的に理解していくことが大切なようです。

 

メディア・リテラシーの定義について(各種文献における定義)


【カナダ】

・メディア・リテラシーとは、メディアはどのように機能するか、メディアはどのように意味を作り出すか、メディアの企業や産業はどのように組織されているか、メディアは現実をどのように構成するかなどについて、理解と学ぶ楽しみを促進する目的で行う教育的な取組。メディア・リテラシーの目標には、市民が自らメディアを創り出す力の獲得も含まれる。
※メディア・リテラシー協会(Association for Media Literacy (AML)出典:「メディア・リテラシーを学ぶ人のために」(鈴木みどり著))

・メディア・リテラシーとは、主体的、非受動的にマスメディアを理解し、利用するプロセスである。これは、メディアの特質、メディアで使用されている技術、及び、これらテクニックの与える影響に関し、知識を持った上でかつ批判的に理解すること、を含む。


【英国】

・メディア教育とは、批判的視聴スキルを養うための適切な教育。
※英国放送協会(BBC),(ITC),(BSC)(出典「暴力と視聴者」報告書 (BBC, ITC, BSC))

・メディア教育は、メディアを批判的に理解することをねらう。
※英国映画機関(BFI)(出典:「メディア教育概念の変遷」、メディア教育研究第1号、(佐賀啓男著))

・レン・マスターマンの「メディア・リテラシー:18の基本原則」


【フランス】

・メディア教育とは、現代のコミュニケーション及び表現メディアの、そして、それらについての研究、学習及び教授であり、教育の理論と実践の中で、特定の自律的な知識の領域として位置付けられ、数学や科学、地理といった他の知識領域の教授・学習のための助補具としてのメディアの利用とは区別される。
※国際映画テレビジョン協議会(IFTC)(出典:「メディア教育概念の変遷」、メディア教育研究第1号、佐賀啓男)


【米 国 】

・メディア・リテラシーとは、多様な形のコミュニケーションにアクセスし、分析、評価し、発信する能力のことである。

・メディア・リテラシーとは、様々な形のコミュニケーション(テレビ、印刷物、ラジオ、コンピューター等)を読み、分析、評価し、また発信する能力である。
SML(出典:「Strategies for For Media Literacy」(SML)

・メディア・リテラシーとは、市民がメディアにアクセスし、分析し、評価し、多様な形態でコミュニケーションを創り出す能力を指す。この力には、文字を中心に考える従来のリテラシー概念を超えて、映像及び電子携帯のコミュニケーションを理解し、創り出す力も含まれる。
※メディア・リテラシー運動全米指導者会議(出典「メディア・リテラシーを学ぶ人のために」(鈴木みどり著))

・メディア・リテラシーとは、「物事の正しい見方」であり、それを通じて我々はメディアに接し、そのメッセージの意味を理解する。
※W. James Potter(出典:「MEDIA LITERACY」(W. James Potter著)


【ユネスコ】

・映画及びテレビという強力で豊かな可能性のあるメディアに対して、大人と子どもの双方が批判的かつ鑑賞的に反応するための教育
※ユネスコ(出典:「メディア教育概念の変遷」、メディア教育研究第1号、佐賀啓男)


【日 本 】

・メディア・リテラシーとは、市民がメディアを社会的文脈でクリティカルに分析し、評価し、メディアにアクセスし、多様な形態でコミュニケーションを創り出す力を指す。また、そのような力の獲得を目指す取組もメディア・リテラシーという。
※鈴木みどり(出典:「メディア・リテラシーを学ぶ人のために」(鈴木みどり著))

・以下の3つの能力が相互に補完的で複合的な関係にあるのがメディア・リテラシーである。
‐メディア使用能力:ビデオカメラの撮り方がわかったり、ワープロが使えたりする。
‐メディア受容能力:テレビ番組や新聞記事を、送り手のいうとおりに鵜呑みにはせず、批判的に読み解いていく。
‐メディア表現能力:メディアを用いて自分自身やグループの意見を発表したり、議論の場をコーディネートできる。
※水越 伸(出典:「学校と地域で育てるメディア・リテラシー」(村野井均、三嶋博之他編))

————————————————–

「メディアリテラシー・18の原則」

英国のメディア・リテラシーのもととなったレン・マスターマンの「メディア・リテラシー:18の基本原則」を紹介しましょう。

1.メディア・リテラシーは重要で意義のある取組みである。その中心的課題は多くの人が力をつけ社会の民主主義的構造を強化することである。

2.メディア・リテラシーの基本概念は、「構成され、コード化された表現」(representation)ということである。メディアは媒介する。メディアは現実を反映しているのではなく、再構成し、提示している。メディアはシンボルや記号のシステムである。この原則を理解せずにメディア・リテラシーの取り組みを始めることはできない。この理解からすべてが始まる。

3.メディア・リテラシーは生涯を通した学習過程である。ゆえに、学ぶ者が強い動機を獲得することがその主要な目的である。

4.メディア・リテラシーは単にクリティカルな知力を養うだけでなく、クリティカルな主体性を養うことを目的とする。

5.メディア・リテラシーは探究的である。特定の文化的価値を押し付けない。

6.メディア・リテラシーは今日的なトピックスを扱う。学ぶ者の生活状況に光を当てる。そうしながら「ここ」「今」を、歴史およびイデオロギーのより広範な問題の文脈でとらえる。

7.メディア・リテラシーの基本概念(キーコンセプト)は、分析のためのツールであって、学習内容そのものをを示しているのではない。

8.メディア・リテラシーにおける学習内容は目的のための手段である。その目的は別の内容を開発することではなく、発展可能な分析ツールを開発することにある。

9.メディア・リテラシーの効果は次の2つの基準で評価できる。
①学ぶ者が新しい事態に対して、クリティカルな思考をどの程度適用できるか
②学ぶ者が示す参与と動機の深さ

10.理想的には、メディア・リテラシーの評価は学ぶ者の形成的、総括的な自己評価である。

11.メディア・リテラシーは内省および対話のための対象を提供することによって、教える者と教えられる者の関係を変える試みである。

12.メディア・リテラシーはその探究を討論によるのではなく、対話によって遂行する 。

13.メディア・リテラシーの取り組みは、基本的に能動的で参加型である。参加することで、より開かれた民主主義的な教育の開発を促す。学ぶ者は自分の学習に責任を持ち、制御し、シラバスの作成に参加し、自らの学習に長期的視野を持つようになる。端的にいえば、メディア・リテラシーは新しいカリキュラムの導入であるとともに、新しい学び方の導入でもある。

14.メディア・リテラシーは互いに学びあうことを基本とする。グループを中心とする。個人は競争によって学ぶのではなく、グループ全体の洞察力とリソースによって学ぶことができる。

15.メディア・リテラシーは実践的批判と批判的実践からなる。文化的再生産(reproduction)よりは、文化的批判を重視する。

16.メディア・リテラシーは包括的な過程である。理想的には学ぶ者、両親、メディアの専門家、教える者たちの新たな関係を築くものである。

17.メディア・リテラシーは絶えざる変化に深く結びついている。常に変わりつつある現実とともに進化しなければならない。

18.メディア・リテラシーを支えるのは、弁別的認識論(distinctive epistemology)である。既存の知識が単に教える者により伝えられたり、学ぶ者により「発見」されたりするのではない。それは始まりであり、目的ではない。メディア・リテラシーでは、既存の知識はクリティカルな探究と対話の対象であり、この探究と対話から学ぶ者や教える者によって新しい知識が能動的に創り出されるのである。

訳責 宮崎寿子・鈴木みどり、1999年11月)(鈴木氏注釈:「原文ではマスターマンは「メディア教育(media education)」という言葉を用いているが、これはクリティカルな視点を含む自発的かつ自立的学習を意味しており、「メディア教育」よりは本書でいう「メディア・リテラシー」により近い意味を持つことから、本訳ではこの語を「メディア・リテラシー」と訳出している。」出典「メディア・リテラシーを学ぶ人のために」(鈴木みどり著))