― 子どもとサッカー ―

 サッカーは世界の中で最も盛んなスポーツで、全世界の190近くある国々の170近くの国でナショナルスポーツになっています。日本でも1980年代からサッカー人気は高まり、1993年5月15日のヴェルディ川崎対横浜マリノス戦で開幕した日本プロサッカーリーグ<Jリーグ>の誕生で、子どもの間でも野球と2分する人気となっています(図1)。
 サッカーに大切な3つの<S>は、Speed,Stamina,Spiritと言われ、メキシコオリンピックで日本の銅メダル獲得に貢献したクラーマー氏は「サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士にする」と言っています。このことは、サッカーが身体発育にとっても、心の成長にとっても大切な要素を持ち、人間形成にも重要な役割を持っているスポーツだということを表しています。
 サッカーは、ボールを蹴れれば誰でも参加でき、歩けるようになった幼児期以降であれば幼児から年寄りまで、前や横に走ったり歩いたり、ジャンプしたり、すべったりとオールラウンドな動きでバランス感覚を多面的に獲得でき、生涯スポーツとして楽しむことができます。さらに、チームスポーツとして個人と全体との関係から生まれる協調性や連帯感、責任感、忍耐力、向上心の養成など心の発達や社会的、精神的な人間形成にも好影響を及ぼします。
 しかし、一方で勝利至上主義による練習のやりすぎ、やらせすぎによる使いすぎ症候群(Over use syndrome)などのスポーツ障害や、心が燃えつきて、意欲を失ってしまう燃え尽き症候群(Burn out syndrome)などの弊害も指摘されています。スポーツが、発育盛りの子どもの身体、特に骨、関節や筋肉などに及ぼす影響は年齢、スポーツ種目、運動量などによって異なりますが、適度の運動は、身体の発育によい影響を与えます。一方、子どもは大人を小さくしたものではなく、骨、関節の骨化はまだ未完成で、骨の強さは靭帯よりも弱く、筋肉の発達も不十分です。このため、外力が加わった場合、脱臼や靭帯損傷をおこさずに、骨折や骨端線の損傷を起こすこともまれではありません。また、このような1回の外力による外傷だけでなく、同じ運動の反復や、過剰練習で、関節や骨端核などに小さな外力がくり返し加わり、筋力が弱いことと相まって、大人とは全く異なった身体の動きとなり、慢性の障害を起こします。
 中学生ぐらいまでの発育期の子どものサッカーでは、スピードのある激しいプレーや接触は少ないため、膝靭帯損傷や肉離れなどは少なくなっています。逆に、ジャンプやターンをした時などの転倒による足関節の捻挫や、ボールを蹴ったりした時の剥離骨折など、選手自身によって起こるものが多くなっています。
 サッカー先進国のイギリス、ドイツ、ブラジルなどどこでも、小学生までは子どもの遊びの域を出ず、中学生ぐらいでもクラブチームの練習は週3回程度で、15歳ぐらいになってから本格的なトレーニングに入ります。
 サッカーは人間形成に役立つスポーツですが、子どものサッカーに関わる大人がそのことを意識して、勝利至上主義にとらわれることなく、子どもの健やかに大きく成長してゆく姿を温かく見守ることが大切です。