― 心身症 ―

 人は精神的な不安や緊張が原因でいろいろな症状を出します。例えば、驚いたり、緊張すると心臓がドキドキしたり、オシッコが近くなったり、悲しい時には食欲がなくなったりすることは誰もが経験することです。これは心の動きが自律神経を通して身体に反応をおこしているもので、一時的であり、しばらくすると元に戻ります。しかし、精神的なストレスが強く、不安や緊張が続くと自律神経の働きが乱れて、うまくコントロールできずに、神経系、消化器系、呼吸器系、泌尿器系、皮膚などにいろいろな症状として現れてきます。このように、精神的な原因で身体症状を発症した病態を心身症と言います。

 また、日本心身医学会教育研修委員会(1991年)では「身体疾患のうち、その発症と経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害の認められる病態を呈するもの。ただし、神経症、うつ病などの精神障害に伴う身体症状は除外される」と定義しています。

 小児の心身症の特徴は、
①身体も心も発育発達段階にあり、指しゃぶり、夜泣き、夜尿、赤ちゃん言葉などはある年齢までは正常でも、それ以上の時期では異常となることで、下に赤ちゃんができたとか、母親が入院したなどの環境の変化で退行反応(赤ちゃんがえり)として現れたりする。

②乳児では感情や体の機能が細分化していないため、全身的な過敏反応として現れ、幼児や学童では一部に器官に限局した単純な器官反応としての症状が多くなるが、大人のような複雑な心理規制によるものは少ない。

③心身の発育が未分化、未熟で心も身体も異常をおこしやすい反面、症状が固定されることは少なく、いろいろと変化し、回復しやすい。

④心の悩みや不安を言葉でうまく表現することができず、身体の症状として訴えることが多い。

⑤自我が未成熟で、自立できず、社会(保育園や幼稚園、学校など)や家庭環境、特に年少児ほど母親の影響を受けやすい。

⑥経験に乏しく、適応能力が不十分である。などがあげられます。

 小児の心因性の症状は何らかの心の不安、緊張の現れです。言葉で訴えることが未熟なために、身体症状や異常行動として表現しているので、症状をとることだけでは解決しないことも多く、まず、話を良く聞いて(傾聴)、受け入れてあげること(受容)が大切です。症状ばかりにこだわらず、心の現れとして症状をとらえ、子供の立場に立って考え、不安や緊張を理解することが必要です。

 社会や家庭環境、特に精神的環境としての親子関係は重要で、環境調整を行いながら、自立心、社会性を養い、精神的抵抗力、自我の強化をすすめていきます。家庭は心の安息所、エネルギーの補給所です。子供たちに居心地のいい場所(家庭)をつくってあげましょう。そして、規則正しい生活習慣をつけ、生活リズムを安定させ、「自分のことは自分でする」ように見守ってゆきましょう。

 身体症状が強い場合には、精神安定剤などの薬物療法を補助的に使用することもありますが、専門医とよく相談して、十分な信頼関係をもっておくことが大切です。