― 起立性調節障害(OD,Orthostatiche Dysregulation)―

 起立性調節障害(OD)とは心臓、血管、呼吸、腸などの働きを調節している自律神経のバランスが乱れることによっておこる、自律神経失調症の一つです。睡眠不足や食事が不規則だったり、風邪を引いたり、無理したとき、体調が悪いときにおこりやすくなります。
 起立する時には重力がかかって体の血液は下半身に集まりますが、下半身の血管を引き締めたり、心臓のポンプをしっかり働かせて上半身や脳に血液を送り出すように働くのが自律神経です。この調節がうまくいかないと下半身に血液が集まり、脳貧血状態になり、立ちくらみがおこり、心臓がしっかり働こうとするために動悸がおこります(図)。
 思春期前後は急に身長が伸びたり、二次性徴(乳房や陰茎、陰嚢が大きくなったり、陰毛が生えたりする)が始まったりするため、自律神経やホルモンの調節がうまくいかないことが多く、起立性調節障害もみられやすい時期で、小学校高学年から中学生の約10%にみられます。乳児にはなく、幼児にも少なく、10歳以上で増えてきます。女児に多く、4~7月の春から夏に増悪することが多く、1学期の学業成績が低下したりすることもあります。
 家族素因が約80%にあり、特に母親の70%に同様の症状があるか、昔あったことがあり、約半数が小児期より続いています。父親で約25%、兄弟内にも約半数にみられるという報告もあります。
 診断は1960年の小児起立性調節障害研究班の診断基準(表)があり、これに基づいて行いますが、貧血やてんかん、脳腫瘍、不整脈、心筋症、うつ病などの器質的疾患を除外しておく必要があります。安静臥床後15分起立した前後の脈拍、血圧、心電図変化をみて、循環器症状の関与をみます(起立試験)。本症の特徴として、夜の寝つきが悪いことが多く、午前中調子が悪く、午後になると症状は軽減し、夜になると元気になっていつまでも起きているという症状の日内変動があり、いらだつこともよくみられます。怠けとしてみられたり、不登校の原因の一つになることもあります。
 まず早寝早起きをして、規則正しい生活習慣を身につけて、生活のリズムをつけることが大切です。夜ふかしをしたり、朝食をぬいたりすることはやめましょう。急に立ったりせずにゆっくり立ったりして、徐々に体を慣らしてゆき、体力に応じた運動を継続し、その意志の強さを周りも支えてあげますが、頑張りすぎて逆効果になることもあり、注意が必要です。自律神経の鍛錬として水かぶり、冷水摩擦があります。入浴後に膝から下に冷水をかけ徐々に体にもかけるようにし、体を拭くのも冷水で絞ったタオルで拭くようにします。夏から初めて、冬も続けるようにします。生体リズムが夜の方にずれていることが多いので、朝目覚めたら30分以上日光を浴びさせ概日リズムを正常に戻すようにします。自律神経訓練法などのリラクゼーションも有効です。
 自律神経の働きが十分でない朝方に調子が悪いことが多いので、学校でもこのことを認識してもらい、決して怠けたりしているのではない事を理解して対応してもらうことも必要です。
 症状が強いときには昇圧剤(血圧を上げる薬)や自律神経を調節する薬などを服用します。症状は長引くこともあり、かかりつけの医師に根気よく定期的に通院することが大切です。
 男子の約75%は軽快しますが、女子の約半数は成人になっても症状が残るものが多いようです。