― 鼠径ヘルニア(脱腸)―

 ももの付け根の部分を鼠径部といい、そこに、生まれるまでに閉じるはずの腹膜鞘状突起という袋状の組織が残存し、小腸が降りてきて膨らみができるものを、鼠径ヘルニア(脱腸)といいます。手で押さえると腸内容がグチュグチュといってお腹の中に戻ります(還納)が、泣いたり、咳込んだり、きばったりして、お腹に力が入って、腹圧がかかったり、お風呂に入って筋肉の緊張がゆるんで、立ったりした時など再びできます。男児では鼠径部から陰嚢まで膨らむこともあり、女児では卵巣が脱出することもあります。陰嚢水腫のようにペンライトを密着させても、透けて見えるような透光性はありません。
 鼠径ヘルニアの頻度は、子どもの5%ぐらいにみられますが、4~10対1ぐらいの割合で女児より男児に多く、だいたい半分が右側で、左側が3~4割、両側にみられるものが1~2割あります。2歳ぐらいに気づかれることが多いのですが、6歳以降に初めてみつかることもあります。36~43%に4親等以内の家族歴があるという報告もあります。
 ヘルニアの部分の膨らみ(腸)が手で押さえても元に戻らなくなった状態を嵌頓ヘルニアといい、痛がって泣いたり、吐いたりします。この嵌頓状態が続くと、腸が締めつけられて、血液が流れなくなり、腸閉塞状態になり、腸が壊死(腐った状態)に陥るため、緊急手術が必要になります。泣き続けて吐いたり、ぐったりして元気がなくなったり、鼠径部や陰嚢が赤黒く腫れて痛がり、ヘルニアが嵌頓している時はすぐに医師の診察を受ける必要があります。
 鼠径ヘルニアが自然に治る確率は35%ぐらいという報告もあるようですが、嵌頓ヘルニアを起こすこともあり、乳児期にみつかった場合は3カ月以降1年以内、体重が10㎏を目安に手術を行うことが多いようです。1歳以降にみつかった場合は、みつかり次第に手術をすることが勧められています。